老年精神医学雑誌第36巻第10号 特集 「遺伝カウンセリング実践のために」
老年精神医学雑誌第36巻第10号 特集 「遺伝カウンセリング実践のために」 と題した特集を組みました。 APOE は以前よりアルツハイマー病発症リスクの感受性遺伝子として知られていました。PSEN1変異のような単一遺伝子変異を原因とするメンデル遺伝型認知症とは異なり、 APOE の診断的意義は乏しく、かつてのガイドラインでは実臨床におけるアルツハイマー病診断や発症予測を目的としたAPOE遺伝学的検査は推奨されてきませんでした。 しかし、抗アミロイドβ抗体薬の有害事象のひとつアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities ; ARIA)は、 APOE 遺伝型に関連します。とくに症候性ARIAの多くは APOE ε4ホモ接合体保持者です。薬理遺伝学的な観点からは APOE 遺伝型を調べる意義があります。海外の抗アミロイドβ抗体薬適正使用指針では、事前の APOE 遺伝型検査が推奨され、施設基準にも遺伝カウンセリングの体制がはいっています。しかし、本邦では遺伝カウンセリング体制や医療現場の懸念からか、抗アミロイドβ抗体薬の使用指針に遺伝カウンセリングの事項ははいらず、 APOE 遺伝型検査は保険収載されませんでした(2025年11月現在)。 日本医学会のガイドライン は、「既発症者を対象とした遺伝学的検査の事前の説明と同意・了解は原則として主治医が行う」「遺伝カウンセリングに関する基礎知識・技能についてはすべての医師が習得しておくことが望ましい」としています。日本人健常者の0.5%がε4ホモ接合体、ε4ヘテロ接合体は15%以上ですから、希少な遺伝病とは異なり、 APOE の遺伝カウンセリングを遺伝子専門医に委ねるのは非現実的です。多職種連携を特徴とする認知症診療に、遺伝カウンセラーもはいるべきかもしれません。認知症悪化予防のエビデンスも多数出てきましたから、アルツハイマー病のリスクが高い方に予防策を提示するのは、認知症の専門医の仕事でしょう。 そこで、認知症にかかわる医療者の遺伝カウンセリングが実践するために、この企画を考えました。エキスパートの先生方が玉稿をいただき、出版できました。 ぜひご一読ください。