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Webセミナー 認知症に携わる先生方へ送るMessage

Webセミナー 認知症に携わる先生方へ送るMessage と銘打った研究会で、抗アミロイドβ抗体薬の使い分けについて講演しました。 lecanemabはprotofibrill、donanemabは ピログルタミル化されたアミロイドβ 、つまり凝集したアミロイドβプラークを標的としますが、ターゲットの違いによる使い分けはありません。今後の10年・20年の長期フォロー研究が、何かデータが出てくるかもしれません。また、アミロイドβが減ったアルツハイマー型認知症の10年・20年の状態もまだわかりません。アミロイドβがウイルスを封じ込めるというデータは こちら と こちら 。抗アミロイドβ抗体薬での脳萎縮は こちら 。The Human Connectome Projectの認知症健常者のデータは こちら 。 現時点での使い分けは、2つの最適使用推進ガイドライン( こちら と こちら )でMini-Mental State Examination(MMSE)の点数で分けられます。これは治験の患者条件を引き継いだものです。Clinical Dementia Rating(CDR)は共通です。 抗アミロイドβ抗体薬とMMSE・CDR lecanemabのみ どちらも可 donanemabのみ MMSE 29 30 22〜28 20 21 CDR 0.5 または 1.0 ここで重要なのが、どのMMSE日本版を使うか、です(杉下守弘. 日本臨床69(s8) 390-397, 2011)。

BPSD Online seminar

 BPSD Online seminarでアルツハイマー型認知症でのbehavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)に関する講演をしました。 認知症疾患診療ガイドライン2017は こちら 、Amazonは こちら 。 認知機能障害を基盤に、身体的要因・環境的要因・心理的要因などの影響を受けて出現するのがBPSD。アルツハイマー型認知症では病期に応じ、BPSDの種類が異なります。進行期だけでなく、軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)の時期にもあります。 こちら と こちら 。 International Psychogeriatric Associationの認知症におけるagitationの定義は こちら 。 そのagitationも、アルツハイマー型認知症の進行するにつれて多くなり、介護者の負担になりますが、Clinical Dementia Rating(CDR)0.5のMCI相当でもあるようです。 こちら 。 BPSDが家族の対応により惹起することもあります。しかし、医療者は家族の苦悩を把握しなければなりません。 こちら 。私は、介護者の精神を安定させるためにも、介護保険の利用を勧めます。 耳が遠いことも多いですし、早口の内容の理解も難しいこともありますので、ゆっくり大きな声で話します。ただそうなると、長文は時間がかかります。なるべく簡潔な文にします。 介護・看護のテクニックとして、 ユマニチュード ・ バリデーション療法 があります。入院では Reality Orientation があります。 かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)は こちら 。brexpiprazolが入ってきます。国内臨床試験の結果は こちら 。認知症での向精神薬使用は適応外使用になりますが、昨年brexpiprazolが「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」に対する効能・効果が承認されました。 薬剤の調整も重要です。認知症疾患診療ガイドライン2017には中枢神経系の有害事象を引き起こす可能性がある薬剤が多数リストされています。睡眠導入剤、向精神薬のほかに、神経障害性疼痛に対する...

老年精神医学雑誌第36巻第10号 特集 「遺伝カウンセリング実践のために」

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  老年精神医学雑誌第36巻第10号 特集 「遺伝カウンセリング実践のために」 と題した特集を組みました。 APOE は以前よりアルツハイマー病発症リスクの感受性遺伝子として知られていました。PSEN1変異のような単一遺伝子変異を原因とするメンデル遺伝型認知症とは異なり、 APOE の診断的意義は乏しく、かつてのガイドラインでは実臨床におけるアルツハイマー病診断や発症予測を目的としたAPOE遺伝学的検査は推奨されてきませんでした。 しかし、抗アミロイドβ抗体薬の有害事象のひとつアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities ; ARIA)は、 APOE 遺伝型に関連します。とくに症候性ARIAの多くは APOE ε4ホモ接合体保持者です。薬理遺伝学的な観点からは APOE 遺伝型を調べる意義があります。海外の抗アミロイドβ抗体薬適正使用指針では、事前の APOE 遺伝型検査が推奨され、施設基準にも遺伝カウンセリングの体制がはいっています。しかし、本邦では遺伝カウンセリング体制や医療現場の懸念からか、抗アミロイドβ抗体薬の使用指針に遺伝カウンセリングの事項ははいらず、 APOE 遺伝型検査は保険収載されませんでした(2025年11月現在)。 日本医学会のガイドライン は、「既発症者を対象とした遺伝学的検査の事前の説明と同意・了解は原則として主治医が行う」「遺伝カウンセリングに関する基礎知識・技能についてはすべての医師が習得しておくことが望ましい」としています。日本人健常者の0.5%がε4ホモ接合体、ε4ヘテロ接合体は15%以上ですから、希少な遺伝病とは異なり、 APOE の遺伝カウンセリングを遺伝子専門医に委ねるのは非現実的です。多職種連携を特徴とする認知症診療に、遺伝カウンセラーもはいるべきかもしれません。認知症悪化予防のエビデンスも多数出てきましたから、アルツハイマー病のリスクが高い方に予防策を提示するのは、認知症の専門医の仕事でしょう。 そこで、認知症にかかわる医療者の遺伝カウンセリングが実践するために、この企画を考えました。エキスパートの先生方が玉稿をいただき、出版できました。 ぜひご一読ください。

認知症連携講演会

認知症連携講演会において、東京労災病院での認知症診療について講演いたしました。 東京労災病院、東京のはじっこにございますが、近隣の先生方のご紹介と 大田区もの忘れ検診 により、抗アミロイドβ抗体薬対象の患者さんが集まってきております。しかし対象になる患者は全体のごくわずかです。 それ以上に認知症と関わっているのが入院患者の 認知症ケアチーム です。認知症の診断・治療で入院することは滅多にありませんが、認知症を有する方が癌の手術・骨折・肺炎などで入院することはよくあります。その際に問題なく入院生活が送れるようお手伝いするのが 認知症ケアチーム です。東京労災病院では入院患者の約1/3に介入しています。 せん妄発症因子の分類は こちら 。 認知症専門の看護師・社会福祉士については こちら 。 ユマニチュード ・ バリデーション療法 ・ 現実見当識訓練 を駆使して対応します。 かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン第3版 もご参照ください。

第40回日本老年精神医学会

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金沢市文化ホールで 第40回日本老年精神医学会 が開催されました。抗アミロイドβ抗体薬、 agitation 、共生社会の実現を推進するための認知症基本法、認知症でのadvanced care planningとwell-being、石川県ということで災害と認知症など、話題豊富です。私は遺伝カウンセリングのシンポジウムを企画させていただきました。聞けなかったセッションはオンデマンド配信で勉強させていただきます。 私は例年通り、最終日に神経学的所見のとり方実践講座を担当しました。教科書は こちら 。診察方法の動画サイトもございますので、ご一読ください。 瞬間診断については こちら 。 午後は画像の講義をさせていただきました。この内容は、昨年 老年精神医学雑誌に特集を組みました のでこちらもご一読ください。

第14回日本認知症予防学会学術集会 第7回認知症予防専門医スキルアップセミナー

 第14回日本認知症予防学会学術集会 の第7回認知症予防専門医スキルアップセミナーにおいて、「抗アミロイド抗体療法時代の画像の見方」について講演いたしました。 内容に関して、深く学びたい方は、 老年精神医学雑誌 第35巻 第12号の特集「認知症疾患の診断に必要な検査」 をぜひご覧ください。 抗アミロイドβ抗体薬の登場前は、軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)など軽症の認知機能障害は、現行の検査で確定的な診断ができなくても、年単位のフォローアップによって答えにたどり着くことがありました。 しかし、抗アミロイドβ抗体薬登場により、初期診断を徹底的にやり、初期アルツハイマー病の可能性があり抗アミロイドβ抗体薬が希望されれば、アミロイドPETか髄液検査で脳内アミロイドβの蓄積を証明する必要があります。また、典型的なアルツハイマー型認知症だけでなく、臨床的に posterior cortical atrophy 、 logopenic progressive aphasia 、 corticobasal syndrome 、行動異常型前頭側頭型認知症などと診断された非典型例も、アルツハイマー病の可能性を考慮する必要があります。石井賢二先生のPETの総説は こちら 。行動異常型前頭側頭型認知症や意味性認知症でも病理でアルツハイマー病が少なくない、 こちら と こちら 。変形視でアミロイドβ蓄積が証明された自験例、ビタミンB12欠乏症でしたがSPECTがアルツハイマー型認知症のパターンだった例は こちら 。 アミロイドPETや髄液アミロイドバイオマーカーでアルツハイマー病が確定できるわけではありません。 アミロイドPETイメージング剤の適正使用ガイドライン改訂第4版は こちら 。アミロイドPETが陰性であれば、認知機能障害の原因疾患がアルツハイマー病である可能性は低いと判断できます。陽性だった場合は、アルツハイマー病の可能性はありますが、他の認知症を否定できるわけではありません。 レヴィ小体型認知症ではcommon formではアミロイドβ陽性になります。 こちら 。なぜレヴィ小体型認知症でアミロイドβが蓄積する機序は諸説あります。例えば、レヴィ小体型認知症の病態の中心 αシヌクレインがアミロイドβの凝集を促進し 、逆...

病院見学会

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独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院  の 病院見学会 が開催されました。 instagramは こちら 。 私は認知症の「予防」について講演しました。 アミロイドβの凝集過程は こちら 。 抗アミロイドβ抗体薬は こちら 。 lecanemabのClarity AD試験は こちら 。 donanemabのTRAILBLAZER-ALZ 2試験は こちら 。 認知症の予防は 一次予防  発症を防ぐ 二次予防  早期発見→早期対応 三次予防  認知症診断後の進行を食い止める があります。 こちら または こちら 。 平成26年度の「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」 では今ごろ本邦の認知症患者は700万人と推計されていました。 2024年6月に「 共生社会の実現を推進するための認知症基本法 」が施行されたことを受け、 有病率調査と推計が再度実施されました 。この調査では、2025年約450万人と推計されました。つまり、2014年の推計より減りました。軽度認知障害+認知症の有病率は大きな変化はありませんでした。この考察として、喫煙率の低下、糖尿病・高血圧など生活習慣病の治療の変化が挙げられました。逆にいうと、これらが認知症移行の予防策の一部と言えます。 Lancetの認知症予防の総説は こちら 。 生涯を通じて認知症リスクを軽減するための具体的な行動として、以下が挙げられています。 すべての人に質の高い教育が受けられるようにし、認知能力を保護するために中年期に認知を刺激する活動を奨励する 難聴者が補聴器を利用できるようにし、有害な騒音への曝露を減らして難聴を軽減する うつ病を効果的に治療する 接触スポーツや自転車に乗る際はヘルメットや頭部保護具の使用を奨励する スポーツや運動に参加する人は認知症を発症する可能性が低いため、運動を奨励する 教育、価格統制、公共の場での喫煙防止を通じて喫煙を減らし、禁煙アドバイスを利用できるようにする 高血圧を予防または軽減し、40歳から収縮期血圧を130 mmHg以下に維持する 中年期から高LDLコレステロールを検出し治療する 健康的な体重を維持し、肥満をできるだけ早く治療することは糖尿病の予防にも役立つ 価格統制と過剰摂取のレベルとリスクに対する意識向上を通じて、アルコールの過剰摂取を減らす 高齢者に優しく支...