第37回脳卒中学会総会:Stroke 2012
2012年4月26日〜28日、福岡国際会議場で第37回脳卒中学会総会が開催されました。確か1998年頃から脳卒中の外科学会・スパズムシンポジウムと同時開催されるようになったので、巨大な学会になりました。来年は日本医科大学神経内科が主催です。ご参加よろしくお願いいたします。
私の発表は、延髄梗塞による「オンディーヌの呪い」症候群に2症例について。オンディーヌの呪いの伝説については、こちらの総説をご参照ください。呼吸中枢は、種々の成分からなる境界不明瞭な神経細胞の集合体と考えられていて、明確な核を形成しているわけではありません。延髄網様体には背側呼吸群(主に吸気)と腹側呼吸群(主に呼気)があり、橋下部の持続性吸息中枢と橋上部の呼吸調節中枢があります。呼吸の調節は、代謝性調節系と行動性調節系に分類されます。代謝性調節系は延髄に中枢があり、化学受容器(頚動脈小体;PO2・PCO2、延髄;PCO2)と呼吸器系の固有受容器からの入力があります。行動性調節系は、しゃべる、笑う、泣くなど覚醒時の行動の発現に関与し、呼吸リズムや換気量に複雑な随意的あるいは不随意的な調節を行います。行動や情動の情報は大脳や間脳から呼吸中枢へ入力、呼吸中枢の活動を調節することを介して間接的に呼吸筋の活動を支配するほか、呼吸筋の活動を直接的にも支配しています。覚醒時の呼吸調節には代謝性調節系・行動性調節系ともに関与しますが、安定したnon-REM睡眠では代謝性調節系のみが関与します。浅いnon-REM睡眠、REM睡眠での寝言や不規則な呼吸パターンの発現では行動性調節系も関与します。中枢性肺胞低換気症候群、いわゆる「オンディーヌの呪い」症候群の病態は、延髄の呼吸中枢自体あるいはその神経伝導路の障害による代謝性調節系による呼吸の自動調節の機能不全です。PCO2の上昇による換気応答は減弱ないしは消失しています。行動性調節系を用いる随意的な換気努力がなされない限りは、慢性的な低換気状態に陥ります。従って、覚醒時は行動性調節系の働きによる換気努力によって呼吸を続けることは可能で、換気低下を代償できますが(ただし覚醒時も無呼吸がしばしば起こる)、行動調節系は作動しない睡眠時は代謝性調節系も作動しないため低換気状態となり致死的状況になりうるわけです。私たちの2症例もそうでしたが、過去の症例報告も読むと、気管切開術を実施した例で呼吸器から離脱できた症例が多い印象でした。死腔が減るためだと思っております。近いうちにきちんとまとめたいと思います。
このポスターを張り終わってから、脳卒中画像診断のシンポジウムに行きました。岩手医科大学工藤興亮先生からは、新潟大学につづいて導入された7 TeslaのMRIの臨床画像について。磁場の影響で、めまいがする人がいるそうですが、8 Tesla以下は安全と、米国FDAがお墨付き。こちらをご参照下さい。32トンのコイル。400トンのシールド。病院にインストールするのも大変です。MRAは、前脈絡叢動脈やHeubnerあんど穿通枝も描出可能。ΔOEFについてはこちら。大阪大学下瀬川恵久先生からは、PETを用い薬物動態学 (Pharmacokinetics, PK) と薬力学 (Pharmacodynamics, PD) の測定と新薬治験への応用について。PK/PD理論は最近抗生物質では常識。治験には数千人の被験者が必要ですが、10例程度でOKと。これが数百例必要、なんてことになると、私たち研究者のPETの枠がきっとなくなる... よかったよかった。無菌室など施設基準が厳しく、現在核医学学会を中心にガイドラインを検討中。長崎大学の堀江信貴先生からは、頚動脈プラークイメージング。ECHOについてはこちら。神戸大学山本大輔先生からは、Arterial Spin Labeling(ASL)。こちら。川崎医科大学松本典子先生からは、超音波造影剤を用いたプラークイメージング。総説はこちら。プラークの破綻や新生血管がわかります。
次はリハビリテーションのシンポジウム。東北大学森悦郎先生から、行政が言う「高次脳機能障害」についての解説。NIHSSが0でも、高次脳機能障害があること、つまり、NIHSSで高次脳機能障害は検出できないことを強調されました。産業医科大学の岡崎哲也先生は、高次脳機能障害のリハビリテーションと職場復帰について講演されました。エピソード記憶が障害されている場合、意味記憶と手続き記憶が保たれている場合があり、リハビリテーションではこれを利用します。世田谷記念病院酒向正春先生は被殻出血の左右で右の方が歩行機能が増悪するという演題でした。先行論文はこちら。学習障害により間違った歩行が身に付いてしまうそうで。長下肢装具で股関節をのばす。歩行は脊髄のcentral pattern generatorで自動的に行われる反射のようなもの。私の最初の研究で勉強しました。その論文はこちら。埼玉医科大学大沢愛子先生からは小脳・橋の病変での高次脳機能障害。小脳も運動プログラムなど記憶に関与します。
ランチョンセミナーでは、慶應義塾大学鈴木則宏先生から、脳梗塞再発予防について。The EVEREST (Effective Vascular Event REduction after STroke) Registryについてはこちら。JELISも出てきました。
そのあと、私のポスターのプレゼン。
終わってから、脳卒中登録研究のシンポジウムへ。DPCのデータを使うのが楽です。
看護師のセッションに行ったら立ち見も出るくらいいっぱいで断念。
血管内治療のシンポジウムに行きました。この分野は職人技。
で、飛行機のお時間。
私の発表は、延髄梗塞による「オンディーヌの呪い」症候群に2症例について。オンディーヌの呪いの伝説については、こちらの総説をご参照ください。呼吸中枢は、種々の成分からなる境界不明瞭な神経細胞の集合体と考えられていて、明確な核を形成しているわけではありません。延髄網様体には背側呼吸群(主に吸気)と腹側呼吸群(主に呼気)があり、橋下部の持続性吸息中枢と橋上部の呼吸調節中枢があります。呼吸の調節は、代謝性調節系と行動性調節系に分類されます。代謝性調節系は延髄に中枢があり、化学受容器(頚動脈小体;PO2・PCO2、延髄;PCO2)と呼吸器系の固有受容器からの入力があります。行動性調節系は、しゃべる、笑う、泣くなど覚醒時の行動の発現に関与し、呼吸リズムや換気量に複雑な随意的あるいは不随意的な調節を行います。行動や情動の情報は大脳や間脳から呼吸中枢へ入力、呼吸中枢の活動を調節することを介して間接的に呼吸筋の活動を支配するほか、呼吸筋の活動を直接的にも支配しています。覚醒時の呼吸調節には代謝性調節系・行動性調節系ともに関与しますが、安定したnon-REM睡眠では代謝性調節系のみが関与します。浅いnon-REM睡眠、REM睡眠での寝言や不規則な呼吸パターンの発現では行動性調節系も関与します。中枢性肺胞低換気症候群、いわゆる「オンディーヌの呪い」症候群の病態は、延髄の呼吸中枢自体あるいはその神経伝導路の障害による代謝性調節系による呼吸の自動調節の機能不全です。PCO2の上昇による換気応答は減弱ないしは消失しています。行動性調節系を用いる随意的な換気努力がなされない限りは、慢性的な低換気状態に陥ります。従って、覚醒時は行動性調節系の働きによる換気努力によって呼吸を続けることは可能で、換気低下を代償できますが(ただし覚醒時も無呼吸がしばしば起こる)、行動調節系は作動しない睡眠時は代謝性調節系も作動しないため低換気状態となり致死的状況になりうるわけです。私たちの2症例もそうでしたが、過去の症例報告も読むと、気管切開術を実施した例で呼吸器から離脱できた症例が多い印象でした。死腔が減るためだと思っております。近いうちにきちんとまとめたいと思います。
このポスターを張り終わってから、脳卒中画像診断のシンポジウムに行きました。岩手医科大学工藤興亮先生からは、新潟大学につづいて導入された7 TeslaのMRIの臨床画像について。磁場の影響で、めまいがする人がいるそうですが、8 Tesla以下は安全と、米国FDAがお墨付き。こちらをご参照下さい。32トンのコイル。400トンのシールド。病院にインストールするのも大変です。MRAは、前脈絡叢動脈やHeubnerあんど穿通枝も描出可能。ΔOEFについてはこちら。大阪大学下瀬川恵久先生からは、PETを用い薬物動態学 (Pharmacokinetics, PK) と薬力学 (Pharmacodynamics, PD) の測定と新薬治験への応用について。PK/PD理論は最近抗生物質では常識。治験には数千人の被験者が必要ですが、10例程度でOKと。これが数百例必要、なんてことになると、私たち研究者のPETの枠がきっとなくなる... よかったよかった。無菌室など施設基準が厳しく、現在核医学学会を中心にガイドラインを検討中。長崎大学の堀江信貴先生からは、頚動脈プラークイメージング。ECHOについてはこちら。神戸大学山本大輔先生からは、Arterial Spin Labeling(ASL)。こちら。川崎医科大学松本典子先生からは、超音波造影剤を用いたプラークイメージング。総説はこちら。プラークの破綻や新生血管がわかります。
次はリハビリテーションのシンポジウム。東北大学森悦郎先生から、行政が言う「高次脳機能障害」についての解説。NIHSSが0でも、高次脳機能障害があること、つまり、NIHSSで高次脳機能障害は検出できないことを強調されました。産業医科大学の岡崎哲也先生は、高次脳機能障害のリハビリテーションと職場復帰について講演されました。エピソード記憶が障害されている場合、意味記憶と手続き記憶が保たれている場合があり、リハビリテーションではこれを利用します。世田谷記念病院酒向正春先生は被殻出血の左右で右の方が歩行機能が増悪するという演題でした。先行論文はこちら。学習障害により間違った歩行が身に付いてしまうそうで。長下肢装具で股関節をのばす。歩行は脊髄のcentral pattern generatorで自動的に行われる反射のようなもの。私の最初の研究で勉強しました。その論文はこちら。埼玉医科大学大沢愛子先生からは小脳・橋の病変での高次脳機能障害。小脳も運動プログラムなど記憶に関与します。
ランチョンセミナーでは、慶應義塾大学鈴木則宏先生から、脳梗塞再発予防について。The EVEREST (Effective Vascular Event REduction after STroke) Registryについてはこちら。JELISも出てきました。
そのあと、私のポスターのプレゼン。
終わってから、脳卒中登録研究のシンポジウムへ。DPCのデータを使うのが楽です。
看護師のセッションに行ったら立ち見も出るくらいいっぱいで断念。
血管内治療のシンポジウムに行きました。この分野は職人技。
で、飛行機のお時間。
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