ノウリアスト発売記念講演会

Plos One論文の図

帝国ホテル東京で、ノウリアスト発売記念講演会が開催されました。
協和発酵が開発を始めて約20年、日本が世界に先駆けアデノシンA2A受容体拮抗薬が抗パーキンソン病薬として上市されました。私たち東京都健康長寿医療センター研究所では、治療薬ではなく、PET用放射性薬剤の開発・応用を石渡喜一先生を中心に行ってきました。PubMedで、「(Ishiwata K) AND adenosine」で検索いただくと、過去の論文がたくさん出てきます。私の論文はこちらにリストしています。Net BookのNeuroscience-Netにアデノシン受容体の画像化について総説を書いたので、そちらを見ていただければよかったのですが、今は製本化に向けてクローズ中...

アデノシンA2A受容体は、線条体においてはドパミンD2受容体に相反する作用があります。この分野の第一人者、協和発酵キリンの森明久先生の総説では、単純に共存している訳ではないようです。こちら。アデノシンA2A受容体については、この総説がある特集が詳しいです。京都四条病院の久野貞子先生からは、istradefyllineの国内第三相試験の説明がありました。

このご講演で提示いただいたのが、私のPlos One論文でした。open accessですので、無料でfull paperをご覧いただけます。

この論文のFig 2で、Aは63歳健常者の[11C]TMSX PET(アデノシンA2A受容体を画像化)、別の63歳の[11C]CFT PET(ドパミントランスポータを画像化)および[11C]RAC PET(ドパミンD2受容体を画像化)、Bは未治療の60歳パーキンソン病患者(Table 1のNo 2、症状は右優位)、Cは同じ患者の治療後14ヶ月の状態(パーキンソン病治療ガイドライン2002年の時代だったのでpramipexoleとamantadineが使用されました、ジスキネジアはなし)、Dは65歳ジスキネジア例(Table 2のNp 2、症状は右優位)です。

Bの未治療パーキンソン病では、[11C]CFT PETが被殻で低下、特に左で顕著です(症状と合致します)。[11C]RAC PETは健常者よりやや上昇、左の方が右よりあがっています。[11C]RAC はドパミンD2受容体との結合が弱いため、分泌されるドパミンと競合します。パーキンソン病ではドパミンが少ないため、[11C]RAC の結合が容易になるため集積が上がります。
[11C]TMSX PETが画像化したアデノシンA2A受容体の分布は、健常者と有意差はありませんでしたが、ドパミン減少の左右差に着目すると、重症側は軽症側より低下していました。アデノシンA2A受容体はドパミンD2受容体と逆の作用があるので、左右差を是正する方向で代償が働いているものと考えました。

Bの方が治療を開始すると、アデノシンA2A受容体は有意に増加しました。代償のdown regulationが緩和されるためと考えました。

Dのジスキネジアを有するパーキンソン病では、健常者と比較して有意にアデノシンA2A受容体密度が増加していました。Table 2でわかるように、抗パーキンソン病薬が多く投与されています(当然ですが...)。ジスキネジア例ではドパミンD2受容体が過剰に刺激されていると考えると、アデノシンA2A受容体の増加は、その代償と考えられます。

パーキンソン病の進行に伴いアデノシンA2A受容体は増加する、とも考えられますが、剖検脳の研究では、同程度の病期のパーキンソン病において、ジスキネジアを有した例でアデノシンA2A受容体が増加、有さない例では有意差なし、とあります。というわけで、私たちは、ジスキネジア例でのアデノシンA2A受容体の増加は抗パーキンソン病薬の影響ではないかと考えました。私たちの論文の後に出た、Neurologyの論文でも、ジスキネジア例でアデノシンA2A受容体が増加していることを別のリガンドのPETで証明しています。

コメント

Unknown さんの投稿…
三品先生。先見性の強いご研究の紹介、ありがとうございました。この分野で更に発展されることを期待しております。私も先生論文を引用させて下さい。
MM さんの投稿…
坪井先生、コメントありがとうございます。「先見性」は東京都健康長寿医療センターの石渡喜一先生です。私はでき上がったものを地道にルーチンワークをしただけでございます...

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