トレリーフ発売1周年記念講演会

 東京會舘で開催された、トレリーフ発売1周年記念講演会に出席しました。
 福岡大学馬場康彦先生からは、パーキンソン病の治療に関するご講演がありましたが、特に、zonisamideの抗apoptosis効果と、脊髄刺激療法(SCS)のお話が印象的でした。ある時期/ある場所にパーキンソン病発症が多かったので、感染や毒素の関与が示唆されるという論文はこちら。C. H. Hawkes CH et al.のdual hit hypothesisの論文はこちら。T-cellの分化についてはこちら。Apoptpsis pathwayについてはこちら

 横浜市立大学黒岩義之先生からは、パーキンソン病の臨床観察と神経学についての講演がありました。まさに神経学の講義でした。
 大脳基底核回路は超直接路(皮質→STN→GPi→Th)、直接路(STR→GPi→Th)、間接路(STR→STN→GPi→Th)があり、超直接路がブレーキを強めて「ヨーイ」の状態、次に直接路はブレーキを緩める「ドン」の状態で脱抑制により運動を引き出す、間接路がブレーキを踏んで不安定な運動を抑制する状態です。パーキンソン病では、超直接路がすくみ足と関連?、直接路は亢進でdystonia?(抑制が長い)、低下でakinesia?というような考え方が紹介されました(南部先生のブレーキ仮説)。
 次に、左右差のお話がありました。無生物は左右対称ですが、生物は左右のasymmetryが特徴だそうです。この左右非対称に関与しているのが、kinesin superfamily proteins(KIFs)です。論文はこちらこちら
 変性疾患の進行過程には、凝集蛋白の存在があります。(α-synclein、tau、polyglutamine、TDP-43)。α-syncleinは、胎児中脳の移植片にもLewy小体が発現することが確認され(こちらとこちら)、細胞から細胞へ移動することが確認されました。プリオンの伝搬はこちら。プリオンは膜蛋白なので、細胞質内の蛋白と比べると、どんどん伝搬していくようです。
 パーキンソン病の症候学を、X軸として運動症状/非運動症状と分類するとともに、Y軸として大脳基底核・中脳辺縁系関連(抑制)/大脳皮質関連(大脳皮質の機能低下・大脳皮質の抑制からの解放・代償性機能の発現)/脳幹・脊髄反射(抑制からの解放)という分類を提示されました。平均顔ツールを用いた研究が紹介されました。眉毛の上り下がりの左右差について解説されました。閉眼中枢は運動野(Brodmann 4)→錐体路→顔面神経核→眼輪筋、開眼中枢は前頭眼野(Brodmann 8)→皮質核路→動眼神経核/顔面神経核→眼瞼挙筋/前頭筋で、眉毛が上がります。注視方向の眉毛があがります(右を見ると、右の前頭筋が収縮し眉毛が上がる)。単眼視では開眼側の眉毛があがります。パーキンソン病では前頭葉徴候として前頭筋の過剰収縮があります。右>左の傾向があるそうで、右優位のパーキンソニズムが多いからかもしれません。
 などなど、多岐に渡るご講演でした。ハンドアウトを配布いただいたので、こうして内容をブログに書けるのです。いつもはメモはブログに書いた後、廃棄しているのですが、このハンドアウトは永久保存版です。
 最後に黒岩先生より耳が痛いお叱りがございました。昨今一部の病棟はBarreとBabinskiしかとらず、MRIなど画像に頼っている。診察(症候)が真の木とするなら、画像は脳の影。症候学の重要性を強調されました。医療崩壊の千葉では診療のトリアージもやむを得ないかもしれません。しかし学会・研究会で感じるのは、それでも千葉大学など神経内科の先生方はきちんと神経症候を記録されています。私は字が汚いので、2011年1月の電子カルテ以降を待たなければなりません...

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