第35回日本脳卒中学会総会 3
脳卒中学会最終日。今日はグランドホテルの会場に行きました。
脳卒中診療における脳循環代謝画像のシンポジウムがありました。岩手医科大学の小笠原邦昭先生から、オーバービューがありました。血栓溶解療法の適応を決めるのに、SPECTを用いる研究があった(小笠原先生のpaperはこちら)が、on callの検査としては不向きです。そこでdiffusion-perfusion mismatchがでてきたわけだが、機種による違いがあるなど問題もあります。慢性期のバイパス術・CAS・CEAの適応・術前後の合併症予測にもSPECTが有用ですが、コストを考えると、CBV-MRなどでスクリーニングしたいと。座長の大阪大学畑澤順先生からは、golden standardとしてのPETをお忘れなく、とのこと。東邦大学水村直先生からは、SPECTの定量性と再現性がMRIのperfusionより優れていることが提示されました。京都府立医科大学の山田惠先生からは、MRI perfusion画像についてのご講演でした。desmoteplaseの臨床試験にdiffusion-perfusion mismatchを使ったのですが、見事に失敗。EPITHETでも同様でした。しかし、これらの研究では画像診断の基準が大雑把。方法論の標準化が鍵です。東京医科歯科大学田中洋次先生からは、dynamic susceptibility contrast MRI還流画像とPETを比較した研究が報告され、特にMoyamoya病でCBV・OEFと相関していたそうです。岩手医科大学工藤與亮先生からは、CT還流画像が機種により異なることが示され、delay効果などの標準化が必要ということ、PMAはよいようで。論文はこちら。福井大学の木村浩彦先生からは、continuous arterial spin labelingによる脳血流測定法について解説されました。ちょうどここに同様の内容がありました。頸部に radio frequency (RF) pulsesを当てます。兵庫県立姫路循環器病センターの内橋義人先生からは、QUASAR法のASLによる脳灌流画像の臨床応用についての講演がありました。ASLは造影剤を使用しない手法なのでアレルギーの心配がないし点滴ラインが不要ですから患者も検者も楽。臨床応用が期待されます。ステント例では、ステントを回避したRF照射だそうです。
医療システムのセッションに移動しました。多くの地域で脳卒中診療体制に精力的な活動をなさっていることがわかりました。医療崩壊の千葉県は真似しなければならないことがたくさんありました。湘南鎌倉総合病院の森貴久先生からは、脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。平均入院日数が約8日、98%でパス使用、返信も100%と、驚くべき運用実績です。FileMakerで作成し、CDに焼いて送付するそうで、返信も同様、最初に記載した主治医も閲覧することで、長期予後を把握しています。印旛脳卒中地域連携パスも、現在業者に委託している千葉県共用パスバージョンは、FileMakerのランタイムバージョンをCDで送付する予定ですが、完成にはまだまだ... 神戸市立医療センター中央市民病院の渥美生弘先生は、病院前救急医療システムの構築についてでした。三次救急というと重症が中心、中等度から軽症は二次救急・一次救急に搬送されがちですが、脳卒中では、本当に重症だと手術や血栓溶解療法の適応にならず、Stroke Care Unit(SCU)の機能を発揮できません。Prehospital Stroke Life Support(PSLS)の導入で、救急隊とSCUの連携が必要です。院内のImmediate Stroke Life Support(ISLS)も大事です。2009年10月30日に消防法の改訂もあり、搬送までを含めた救急全体の質向上に向けた体制整備が求められます。搬送依頼の電話を受けてからOKの返事(あるいはNo)を出すまでの時間が施設間格差があるようです。
木沢記念病院の山田実貴人先生からは、ICチップを使用したMedicaカードについての報告がありました。情報は4KB、同院入院患者に無償で提供、2.9%(脳外は11%)で再発などの救急搬送、救急車のPDAで情報がわかり効率アップ。電子健康記録(Electronic Health Records、EHR)は費用がかかりますが、よさそうです。川崎医科大学の倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)は有名ですが、その渡邉雅男先生からは、脳出血と脳梗塞を予測する新たな病前救護の取り組みが報告されました。救急隊にも結果をフィードパックすることも大事なようです。東京都区西南部医療圏脳卒中医療連携検討委員会の関要次郎先生から、東京都の新しい脳卒中搬送システムの効果が提示されました。シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)を使用、全脳梗塞中の約22%にrtPA使用と、驚くべき使用率です。富山大学遠藤俊郎先生のお話は、富山県済生会富山病院に脳卒中センターを設立し周辺の診療体制の再構築されたと。行政のtop downではなく、ドクター同士の話し合いで決定されたそうです。急性期のうちに支援病院に転院するようです。富山大学も脳卒中を取らなくなり、腫瘍やDBSなど手術の内容が変わっていったようです。そのかわり、脳卒中センターに派遣を出しています。この大英断はすばらしいです。千葉県でもできればいいのですが... 神戸市立医療センター中央市民病院の山上宏先生からは、神戸市の脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。新たに、維持期へのシートも作成されました。空床情報も流しているそうです。これは印旛脳卒中地域連携パスでもできることです。千葉県救急医療センターの古口德雄先生からは、千葉県共用脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。昨年は第1回千葉県脳卒中連携の会を成功させたこと、歯科のシートが加わったことがトピックス。行政からの多くの資金があるのかと質問がありましたが、千葉県は貧乏、県庁はお金は厳しいですが、人材は出し積極的に関与していただいています。
ランチョンセミナーでは、九州医療センターの矢坂正弘先生から、心原性脳塞栓における抗凝固療法の講演でした。心臓から排出される血液の2割が脳へ行きます。心房細動は欧米の成人の1%、80歳以上では10%(ATRIA study)。日本人ではもう少し少なく0.56%と報告されています。久山町研究では、心原性脳塞栓の再発は75.2%。心原性脳塞栓は重症化しやすいので予防が大事です。現在その予防薬はワーファリン。PT-INRは2〜3。しかし本邦の研究では出血のこともあり、70歳以上では1.6〜2.6がいいです。コントロールが難しい場合もあります。治療域にある時間が確保されていることが重要です。心原性脳塞栓の原因は心房細動がメインですが、1/4で卵円孔開存があるため、奇異性脳塞栓も注意する必要があります。かつては一次予防でアスピリンを使用されていましたが、無効であることが証明されています(ACTIVE Wはこちら、その後ACTIVE Aも出ましたが)。しかし、ワーファリンはコントロールが難しく、出血も怖い。そこで期待されるのが、新しい抗凝固療法です。ひとつは、dabigatranです。抗トロンビン薬です。RELY studyでは、ワーファリン以上の予防効果と出血性合併症の減少が認められました。消化不良(胃部不快など)があるようです。
帰りは新幹線が先行する列車故障で1.5時間遅れました...
脳卒中診療における脳循環代謝画像のシンポジウムがありました。岩手医科大学の小笠原邦昭先生から、オーバービューがありました。血栓溶解療法の適応を決めるのに、SPECTを用いる研究があった(小笠原先生のpaperはこちら)が、on callの検査としては不向きです。そこでdiffusion-perfusion mismatchがでてきたわけだが、機種による違いがあるなど問題もあります。慢性期のバイパス術・CAS・CEAの適応・術前後の合併症予測にもSPECTが有用ですが、コストを考えると、CBV-MRなどでスクリーニングしたいと。座長の大阪大学畑澤順先生からは、golden standardとしてのPETをお忘れなく、とのこと。東邦大学水村直先生からは、SPECTの定量性と再現性がMRIのperfusionより優れていることが提示されました。京都府立医科大学の山田惠先生からは、MRI perfusion画像についてのご講演でした。desmoteplaseの臨床試験にdiffusion-perfusion mismatchを使ったのですが、見事に失敗。EPITHETでも同様でした。しかし、これらの研究では画像診断の基準が大雑把。方法論の標準化が鍵です。東京医科歯科大学田中洋次先生からは、dynamic susceptibility contrast MRI還流画像とPETを比較した研究が報告され、特にMoyamoya病でCBV・OEFと相関していたそうです。岩手医科大学工藤與亮先生からは、CT還流画像が機種により異なることが示され、delay効果などの標準化が必要ということ、PMAはよいようで。論文はこちら。福井大学の木村浩彦先生からは、continuous arterial spin labelingによる脳血流測定法について解説されました。ちょうどここに同様の内容がありました。頸部に radio frequency (RF) pulsesを当てます。兵庫県立姫路循環器病センターの内橋義人先生からは、QUASAR法のASLによる脳灌流画像の臨床応用についての講演がありました。ASLは造影剤を使用しない手法なのでアレルギーの心配がないし点滴ラインが不要ですから患者も検者も楽。臨床応用が期待されます。ステント例では、ステントを回避したRF照射だそうです。
医療システムのセッションに移動しました。多くの地域で脳卒中診療体制に精力的な活動をなさっていることがわかりました。医療崩壊の千葉県は真似しなければならないことがたくさんありました。湘南鎌倉総合病院の森貴久先生からは、脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。平均入院日数が約8日、98%でパス使用、返信も100%と、驚くべき運用実績です。FileMakerで作成し、CDに焼いて送付するそうで、返信も同様、最初に記載した主治医も閲覧することで、長期予後を把握しています。印旛脳卒中地域連携パスも、現在業者に委託している千葉県共用パスバージョンは、FileMakerのランタイムバージョンをCDで送付する予定ですが、完成にはまだまだ... 神戸市立医療センター中央市民病院の渥美生弘先生は、病院前救急医療システムの構築についてでした。三次救急というと重症が中心、中等度から軽症は二次救急・一次救急に搬送されがちですが、脳卒中では、本当に重症だと手術や血栓溶解療法の適応にならず、Stroke Care Unit(SCU)の機能を発揮できません。Prehospital Stroke Life Support(PSLS)の導入で、救急隊とSCUの連携が必要です。院内のImmediate Stroke Life Support(ISLS)も大事です。2009年10月30日に消防法の改訂もあり、搬送までを含めた救急全体の質向上に向けた体制整備が求められます。搬送依頼の電話を受けてからOKの返事(あるいはNo)を出すまでの時間が施設間格差があるようです。
木沢記念病院の山田実貴人先生からは、ICチップを使用したMedicaカードについての報告がありました。情報は4KB、同院入院患者に無償で提供、2.9%(脳外は11%)で再発などの救急搬送、救急車のPDAで情報がわかり効率アップ。電子健康記録(Electronic Health Records、EHR)は費用がかかりますが、よさそうです。川崎医科大学の倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)は有名ですが、その渡邉雅男先生からは、脳出血と脳梗塞を予測する新たな病前救護の取り組みが報告されました。救急隊にも結果をフィードパックすることも大事なようです。東京都区西南部医療圏脳卒中医療連携検討委員会の関要次郎先生から、東京都の新しい脳卒中搬送システムの効果が提示されました。シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)を使用、全脳梗塞中の約22%にrtPA使用と、驚くべき使用率です。富山大学遠藤俊郎先生のお話は、富山県済生会富山病院に脳卒中センターを設立し周辺の診療体制の再構築されたと。行政のtop downではなく、ドクター同士の話し合いで決定されたそうです。急性期のうちに支援病院に転院するようです。富山大学も脳卒中を取らなくなり、腫瘍やDBSなど手術の内容が変わっていったようです。そのかわり、脳卒中センターに派遣を出しています。この大英断はすばらしいです。千葉県でもできればいいのですが... 神戸市立医療センター中央市民病院の山上宏先生からは、神戸市の脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。新たに、維持期へのシートも作成されました。空床情報も流しているそうです。これは印旛脳卒中地域連携パスでもできることです。千葉県救急医療センターの古口德雄先生からは、千葉県共用脳卒中地域連携パスの運用実績が報告されました。昨年は第1回千葉県脳卒中連携の会を成功させたこと、歯科のシートが加わったことがトピックス。行政からの多くの資金があるのかと質問がありましたが、千葉県は貧乏、県庁はお金は厳しいですが、人材は出し積極的に関与していただいています。
ランチョンセミナーでは、九州医療センターの矢坂正弘先生から、心原性脳塞栓における抗凝固療法の講演でした。心臓から排出される血液の2割が脳へ行きます。心房細動は欧米の成人の1%、80歳以上では10%(ATRIA study)。日本人ではもう少し少なく0.56%と報告されています。久山町研究では、心原性脳塞栓の再発は75.2%。心原性脳塞栓は重症化しやすいので予防が大事です。現在その予防薬はワーファリン。PT-INRは2〜3。しかし本邦の研究では出血のこともあり、70歳以上では1.6〜2.6がいいです。コントロールが難しい場合もあります。治療域にある時間が確保されていることが重要です。心原性脳塞栓の原因は心房細動がメインですが、1/4で卵円孔開存があるため、奇異性脳塞栓も注意する必要があります。かつては一次予防でアスピリンを使用されていましたが、無効であることが証明されています(ACTIVE Wはこちら、その後ACTIVE Aも出ましたが)。しかし、ワーファリンはコントロールが難しく、出血も怖い。そこで期待されるのが、新しい抗凝固療法です。ひとつは、dabigatranです。抗トロンビン薬です。RELY studyでは、ワーファリン以上の予防効果と出血性合併症の減少が認められました。消化不良(胃部不快など)があるようです。
帰りは新幹線が先行する列車故障で1.5時間遅れました...
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